善子「不思議な動画」

1: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:34:56.77 ID:VVeJY6Qo
地の文多めです。
立てば書きます

引用元: ・善子「不思議な動画」

2: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:42:07.48 ID:9lZvEpom
立ったぞ

3: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:46:33.51 ID:VVeJY6Qo
それは多分ハンディカメラか何かで、テレビの画面を撮影し続けている、そんな映像だったわ。

環境音って言うのかしら、室内特有のサラサラしたホワイトノイズだけを拾っているの。

5: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:47:07.31 ID:VVeJY6Qo
テレビの中には楽しげに話す一人の女性が映ってるの。
音が無いから話の内容自体は分からないんだけど、ホームビデオみたいに楽しそうな話をしてる、そんな風情なの。

でもね、そのロケーションにはちょっと違和感があるの。
って言うのもね、その女性がどこにいるのか、それが分からないほどに、撮影場所が真っ暗なの。

女性の姿は、多分懐中電灯か何かの局所的な光源で判別できてるんだけど、その周囲の風景はほぼ見えない感じで。

7: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:48:13.10 ID:VVeJY6Qo
反対側を向いて歩いているとかじゃなくて、
「依然としてこちらを見つめたままの状態で、後ろ向きに歩き始めた」の。

その辺りで、画角いっぱいに(少しばかり画面端がはみ出した状態で)テレビ画面を接写していたハンディカメラが、恐らく手レの影響で少しばかり角度がズレたからかしらね。

女性の奇妙な動きを映しているテレビ画面の、画面左上にあった「逆再生」の表示が、その直撮り映像のなかにちらりと映りこんだわ。
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そう、それはね「巻き戻している最中のビデオテープ」の映像を撮影したものだったのよ。

8: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:48:42.96 ID:VVeJY6Qo
逆再生中だから音は出力されないし、音が出力されないまま、ただ女性が口を動かしているだけの映像だったからそれが逆再生中だって事に気づかなかったのよ。

巻き戻されるテレビ映像の中で、さっきまで楽しげに喋っていた女性は、来た道を後ろ歩きでゆっくりと戻っていくの。

それに合わせて、女性を照らしていたいくつかの懐中電灯の明かりは複数のちいさなスポットライトのように、ぶれながらその姿を照らしていったわ。

9: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:49:14.47 ID:VVeJY6Qo
複数の明かりが、不規則にレているからそこで始めて撮影者が複数人である事が分かるの。

女性が後ろに歩いて行ってビデオの撮影者はそれをさっきと同じ場所で見つめている。

そのため遠ざかる女性の姿は段々と小さくなっていき、それに合わせてライトの光も段々と広くぼんやりしたものに変わっていくの。

真っ暗だった背景が、少しずつ薄い灰色に変化していく。

10: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:49:43.73 ID:VVeJY6Qo
それによって、その撮影場所がテレビ越しにでも何とか察せられるようになってきたの。

それは廃墟だったの。
まず人が住むことはできないであろう、ぼろぼろの三階建てアパートのような廃墟。

黒くシミが広がるように朽ちた外壁や、明らかに経年劣化で割れたであろう窓ガラス。

その周りを囲むように生えている、ぼうぼうの雑草。

11: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:50:15.89 ID:VVeJY6Qo
その雑草をかき分けるようにして、女性はこちらを向いたまま後ろ歩きでアパートまで戻り、一階のひび割れた窓を開けて廃墟の中に入り、そして窓を閉めた。

閉まった窓ガラスを、暫くの間、幾つかの懐中電灯が照らした後で、そのビデオの撮影者らは、ゆっくりと、その廃墟を遠ざかっていく。

逆再生の映像だから、その廃墟を視界に映したままで、後ろ歩きに進んでいくことになるの。

15: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:52:01.77 ID:VVeJY6Qo
そのテレビ画面を直撮りしている映像が、じゃなくて、そのテレビ画面が、止まった。

画面の左上を見るとさっきまで「逆再生」だった表示が「一時停止」に変わっててね。

つまり、そのビデオを接写している誰かが、映像の巻き戻しを一旦止めたんでしょうね。

そして、数秒の沈黙の後で、
ビデオが「再生」された。

16: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:52:40.85 ID:VVeJY6Qo
さっきまで無音で逆再生されていた映像が、正規の時間経過に沿って、音声付きで流れ始めたの。

「ハァイ?今私達はー、幽霊が出るって廃墟にー、肝試しに来てるのーー」

明るげで笑いまじりの、女性の笑い声が聞こえてくる。

「あと何分ぐらいで着くって言ってたっけー」

「んー、多分もうちょっとだと思うんだけどー」

カメラは映している。

18: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:53:33.40 ID:VVeJY6Qo
だとすると、この映像には違和感が残る。

先ほどまでの映像が「逆再生」によるものだとするならば、この一団はこのあと車を降りて雑木林を進み、ほどなくして「幽霊が出るっていう廃墟」に辿り着くことになる。

ひとが住んでいるとは思えない、ぼろぼろのアパート。

真っ暗で電灯も無い、正真正銘の廃墟。

19: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:53:58.75 ID:VVeJY6Qo
そして、懐中電灯を片手に其処まで歩いた彼女らは、割れた一階の窓ガラスから出てきてこちらまで歩いてくる、ひとりの女性を目撃することになる。

彼女は微笑を浮かべながら草をかき分けて彼女らに近づいて、そして何かを話し始める。
少なくとも数分間。
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深夜に、山の中に肝試しに来て、その廃墟に行く様子を撮影して、そこで「あの人」が出てきたのなら。

このビデオは何故、それを淡々と撮影できたのか。

21: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:54:49.09 ID:VVeJY6Qo
そして、その声は。
つい先ほど車内の映像で楽しそうに喋っていた、
ひとりの女性の声と、まるきり同じもので。
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へらへらとしたその声とともに、
ずっとテレビ画面を接写していたハンディカメラが大きくぶれ、その撮影者が自分の顔を映した。

「みんなはこの後、何を教えてもらったでしょーか」

23: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:55:41.11 ID:VVeJY6Qo
「正解は、これから見ていけば分かりますよおー」
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そう言ってカメラが再びテレビ画面を向いた。
画面の映像はちょうど彼女らが車を降りる所で、
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「おっ、着いた着いた」
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という声が流れ始めていて。

「そこで私は、映像を切りました」

24: 2chの人々 2023/03/30(木) 03:58:04.66 ID:VVeJY6Qo
この話の提供者である、女性は
そこで話を結んだ。

「なんでこの映像を先輩が、熱出して肝試しに行けなかった私に送ったのかも。皆が今どこで何をしてるのかも。全部、結局、分からないまま終わってしまいました」

206 9.2
著者 東條希

25: 2chの人々 2023/03/30(木) 04:09:32.32 ID:GA5/JDt8
今読むんじゃなかった

26: 2chの人々 2023/03/30(木) 05:15:39.03 ID:oLmd5U9m
こわい(´;ω;`)

Author: tome

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